デュアルキャリア支援の必要性

子育てをしながら夫婦ともに充実したキャリアライフを営む夫婦、いわゆるデュアルキャリア夫婦(DCC)の概念は、1960年代に家族社会学者のローナ・ラポポート氏らにより確立されました。しかし、半世紀が経っても、DCCと呼べる夫婦は、日本の子育て世帯の約4分の1に過ぎません。
労働政策研究・研修機構の調査によれば、女性が学卒時に就いた初職の正規雇用比率は、バブル崩壊前に就職した世代で9割弱、崩壊後に就職した世代でも7割弱に達しています。しかし、正規雇用率は、子どもが高校に入る頃になると、25%程度に大きく下落してしまいます。最も下落幅が大きいのが、第1子妊娠・出産前後です。学卒時の20代をピークに、第1子の妊娠・出産後の30代頃から急低下し、その後40~50代頃に低位安定するL字カーブとなっています。
女性雇用の質を高め、労働生産性上昇を通じて女性の賃金率を向上させ、真の女性活躍社会を実現するには、第1子の妊娠・出産前後にキャリアラダーから降りてしまう状況を防ぐ必要があります。それには子育て就業女性にとって最大の障害である長時間労働問題の解決が不可欠です。
日本では解雇規制により人員整理が難しいため、企業は平時から正社員に長時間労働を強いて、不況期の雇用の調整弁としています。解決のためには、労働の円滑化、ジョブ型雇用への移行、社員基本給の底上げといった日本的雇用慣行の大手術が必要となります。
日本的雇用慣行の問題以外に、女性の家事・育児負担が物理的にあまり減っていないことも大きな問題です。妻が家事の大部分を担っていると回答した割合は、妻が正社員の家庭でも8割に達しています。女性が家事・育児を担うべきだという伝統的価値観が、女性自身を含め、日本社会でなかなか改まらないことが原因です。
長時間労働と家事・育児負担の重さから、キャリアのために結婚や出産を見送る女性が増え続けていることが、日本の少子化の主因となっています。女性の家事・育児と就業の二重の負担問題を解決することが、少子化対策の特効薬となり得ます。DCCへの支援策は、女性労働の量的増加(労働時間増加)、質的向上(生産性向上)、そして少子化対策という一石二鳥の施策と言えます。

(2023年8月7日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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