上場企業の株式分割の副作用

上場企業の株式分割が相次ぐ中、その副作用の懸念が浮上しています。投資がしやすくなる利点の一方、株主提案の乱用を招く恐れが指摘され始めています。25分割したNTTでは、個人株主が約500万円分の株取得によって、自分自身を取締役にするよう求める提案を出しています。もともと日本は、海外に比べて株主総会での株主権限が強いとされており、ルールの見直しも必要になってきています。
近年、NTTをはじめ多くの日本企業が株式分割に踏み切っています。2023年度に株式分割を発表した企業は、前の年度より約6割多い191社に達しています。2022年10月に、東京証券取引所が、投資単位の高い上場企業に株式分割の実施検討を要請したことが後押ししています。要請の目的は、個人が投資しやすい環境を整えることで、それ自体は好意的に受け止める向きが多いのですが、投資のハードルが下がったことで、今回のNTT株主の提案がやりやすくなったとも言えます。
日本は海外に比べ、株主提案の乱用に歯止めがかかりにくい仕組みになっています。米国では、米証券取引委員会の承認を得れば、企業側が株主提案議案を削除できます。日本にはこうした制度はありません。株主は節度ある権利行使が望まれますが、乱用を根絶することはできません。株主の意思を経営に適切に反映させられるようバランスをとらないと、中長期的な企業価値の向上を阻害する恐れがあります。
株主提案の持ち株要件は、日本は総議決権の1%か300個以上の議決権を6カ月間継続保有ですが、英国やドイツ、フランスは、株式の5%以上の保有などとしています。ドイツは50万ユーロ相当、英国は株主100人以上で計1万ポンド相当を保有する場合も認め認められています。米国は、通常の業務執行の意思決定の範囲とされる提案や、配当額の決定に関する提案などは禁止されています。

 

(2024年7月8日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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