不妊治療の保険適用から一年半

不妊治療の公的保険適用が拡大して10月で一年半が経過します。体外受精の治療費が40万円以上からおおむね10万円台に下がるなど、患者の経済的負担は減っています。保険適用拡大に伴い、すでに加入している民間の医療保険で給付対象になったり、自治体が独自の助成制度を始めたりするケースも増えています。さらに健康保険で、1カ月の自己負担が一定額を上回ると超過分が還付される高額療養費制度を利用することもできます。
不妊治療には、タイミング法や人工授精、体外受精といった方法があります。タイミング法は排卵日を予測して自然妊娠の可能性を高める治療で、以前から健康保険の対象でした。精子を子宮内に人工的に送る人工授精、体外で受精させた受精卵を子宮に移植する体外受精の基本的な治療が、2022年4月から保険適用になりました。一定の基準を満たす医療機関ならどこでも同じ金額で治療を受けられ、患者負担は原則3割で済みます。
不妊治療の費用は3つのパターンに分かれます。一つは保険診療を利用して費用の3割を負担する場合です。タイミング法や人工授精は保険診療で対応しやすくなっています。一方、体外受精は保険外の治療を組み合わせることも少なくありません。先進医療として認められた技術を併用すると保険診療分の3割に、10割負担となる先進医療の費用が加わります。自由診療の治療を受けると、保険診療分も含めて負担は10割になってしまいます。3割負担が47%、先進医療との併用が28%、10割負担が25%となっています。
10個採卵した場合、採卵の段階で約3万円、受精(体外受精)では約1万円かかります。受精卵・胚の培養は3万円程度です。育った胚の一つを移植して4個を凍結保存すると、自己負担は薬剤費、管理料などを除いて合計で約12万円となります。こうした保険診療に先進医療を組みわせるケースでは、先進医療の費用分を全額負担することになります。先進医療のうち多くの施設で受けられる技術は現在11種類で、併用できるのは施設基準を満たし、届け出や承認がある医療機関です。金額は技術ごとに違い、同じ技術でも医療機関により金額は異なります。条件を満たせば高額療養費制度でさらに負担が減るのに加え、独自の助成制度を設ける自治体も増えています。東京都は2023年1月から、保険診療を併用した先進医療にかかる費用の7割・最大15万円を助成しています。大阪市や福岡県も先進医療費の助成制度を導入し、助成額はいずれも最大で5万円です。
保険診療の費用は低下する一方、保険診療・先進医療で認められていない治療を組み合わせた自由診療では、費用が高額になります。以前にあった1回30万円までの国の助成制度が保険適用拡大後に終了し、負担が増える場合もあります。女性の年齢が40歳以上になると、保険診療以外の治療が必要になりやすくなります。保険診療の治療を受ける回数には女性の年齢制限があり、40歳未満で1子ごとに通算6回、40歳から43歳未満では同3回までです。43歳以上は対象外となっています。

 

(2023年9月23日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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