企業が抱える人材の価値である人的資本を開示する動きが広がっています。人的資本とは、人材を企業のコスト要因ではなく、投資対象とみなして企業価値の向上につなげる考え方です。教育や訓練、最適な配置を通じてスキルや能力など人材の持つ価値を最大化し、企業価値を高めます。経済のデジタル化が進むなか、人的資本の企業価値に与える影響が大きくなっており、投資家も重視しています。
開示基準を定める動きが、世界各国で広がっています。欧州委員会は、人的資本を含めたESG(環境・社会・企業統治)の情報開示ルールの策定を急いでいます。米証券取引委員会は、2020年に従業員数の開示を義務付けています。日本では、改定企業統治指針で人的資本の開示が要請されています。
わが国では、2021年に統合報告書を発行した718社の5割が、女性管理職の登用目標を開示しています。会社の経営方針や職場への満足度を示す従業員エンゲージメントは、2割が公表しています。投資家が人的資本を重視する流れは強まっており、企業の選別が進む可能性があります。企業の競争力がソフトウェアや特許など無形資産に移る中、教育や訓練などを充実させて企業価値を高める必要があります。
従業員の働き甲斐を高め、生産性改善や離職防止につなげようとする企業も出てきています。統合報告書発行企業の17%が従業員エンゲージメントを、6%が離職率を示しています。経営戦略を実行するのは従業員です。投資家は、経営戦略と人事や教育制度が連動しているかに注目しています。
(2022年3月24日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)