労働分配率の伸び悩み

企業が人件費をどのくらい払っているかを示す労働分配率が、大企業はこの50年で最低水準に落ち込んでいます。財務省が公表する法人企業統計のデータの分析によれば、大企業ほど人件費に回すお金を抑えています。中小企業は比較的お金をかけています。今後は生産性を上げないと賃上げもままならない状況です。
労働分配率は、企業の経営状態を測る指標の一つです。企業が生み出した付加価値(役員と従業員の人件費、経常利益、賃借料、税金や利払い費、減価償却費の合計)のうち、人件費が占める割合のことで、値が高いほど人への配分が厚いことになります。
金融・保険業をのぞく全産業の労働分配率は53.7%で、前年度より1.0ポイント下がっています。過去50年間の平均の58.8%から遠ざかり、人件費にあまりお金を回さなくなったといえます。顕著なのは資本金10億円以上の大企業です。2008年のリーマンショック以降、ほぼ右肩下がりになっています。2022年度は前年度より2.0ポイント低い36.6%で、大企業の過去の平均の44.4%を大きく下回り、この50年で最低でした。
中小企業は、大企業よりも分母となる利益水準が低いうえ、人手がかかる事業を営んでいたり、役員報酬の占める割合が高かったりするため、簡単には上がらず、逆に下がりにくくもあります。中小企業の労働分配率は既に高い水準にあり、賃上げの実現には、生産性を高め、価格転嫁を進めて稼ぐ力もつけなければなりません。

(2023年11月6日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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