国立大の稼ぐ力

法人化から20年が経ち、国立大は自己収入を倍増させたものの、人への投資に十分に資金を回せず国際的な人材獲得競争で後れを取っています。稼ぐ力の重みが増す中、約53万円に据え置かれている授業料の妥当性を含め、収入源の多様化など財務構造の見直しが検討されています。
日本の研究力衰退は止まりません。指標となる引用上位10%の論文数で日本は下落傾向で、2019~2021年の平均で過去最低の13位に沈んでいます。中核を担う国立大の復活は喫緊の課題となっています。カギとなるのが優秀な研究者の確保です。世界の大学が激しい人材獲得競争を繰り広げる中、待遇面で競り負けないためには強固な財政基盤の確立が不可欠となってきます。
全国立大の2022年度の自己収入は約2兆4,300億円と、2004年度の約1兆2,700億円と比べ約2倍になっています。しかし、その内訳をみると大学が使途を自由に決められる資金は多くありません。5割を占める大学付属病院の収入(約1兆2,900億円)は主に病院経営に充当され、2004年度比で3倍超に増えた企業や公的機関からの受託研究費(3,541億円)も、特定の研究目的以外には使えません。大学側に裁量がある自己収入は、2004年度から倍増した寄付金収益(1,221億円)など一部にとどまっています。
国立大の授業料標準額の53万5,800円は、20年間据え置かれています。授業料を含む学生納付金は3,578億円で、2004年度の3,568億円とほとんど変わっていません。東京大を含む3校が授業料引き上げを検討、12校が今後検討する可能性があるとしています。

 

内閣府の資料では、英オックスフォード大の2019年の収入は2,201億円で、2005年の3倍を超えています。資産運用や出版事業による収益を大幅に増やしています。米ハーバード大は、同期間に2倍弱の6,062億円に収入を拡充しています。寄付金収入を2倍超の519億円としたほか、授業料収入も2倍弱の1,321億円としています。豊富な資金力により人材を集め競争力を高めています。研究基盤となる国立大の体制を強化しなければ、グローバル競争での差が開いてしまいます。授業料を含めた財務構造や研究力強化策など国立大のあり方を検証すべきです。

(2024年7月31日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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