少子化対策を考える上でよく指摘されるのが、夫婦の理想の子ども数である。1970年以降、理想の子ども数は2.0を超えており、30年間以上大きな変化は見られない。この値は、現在人口を維持するために必要とされる出生率である人口置換水準2.07とほぼ一致している。しかしながら、実際の出生率とは乖離があり、1970年以降、人口置換水準を大きく下回っている。理想の子ども数は個人のデータがもとになっているのに対し、出生率は15~49歳の女性を再生産人口と想定し、その年齢ごとに出生した子ども数を分子とした値を足し合わせたものであり、マクロな値であるため、両者を比較するには少し無理がある。しかし、この合計特殊出生率は、一生にわたって女性が産む平均的な子ども数とみなされている。
多くの若者が子どもを欲しい、結婚したいという希望を持っている限り、希望を実現できるような環境整備をすることが政策である。出生率を上げるための数値目標を国が設定することはなかなか難しい。妊娠・出産は、あくまでも女性、あるいは若いカップルの個人的な選択であることからも、国が決して産むことを強要できる問題ではない。若い男女が妊娠・出産し、子育てをしたいと思える社会を実現しなければ、少子化の危機を突破できない。そのための財政支援は少子化対策の必要条件である。
(2014年9月3日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)