性同一性障害の手術要件

トランスジェンダーが戸籍上の性別を変えるのに、生殖能力を失わせるなどの手術を必要とする性同一性障害特例法の規定が、憲法に違反するかどうかが最高裁で審議されています。特例法は、性別変更に5要件を定めています。生殖腺(卵巣や精巣)がないか、その機能を永続的に欠く(生殖不能要件)と変更する性別の性器に似た外観を備えている(外観要件)の2要件を満たすには、原則手術が必要になります。
今回、家裁も高裁も生殖不能要件を満たさないとして申立人の性別変更を認めず、外観要件については判断していません。最高裁は下級審の事実認定をもとに法的判断をするため、外観要件について正面から見解を示すかは見通せません。最高裁が生殖不能要件のみを違憲と判断すると、トランス男性は救済されますが、トランス女性は救済されないとの懸念があります。
女性から男性に性別変更するトランス男性の場合、ホルモン投与で陰核が肥大化し、外観が陰茎に近づいていれば、家裁は外観要件を満たすと判断する傾向にあります。このため、トランス男性については外性器の手術はほとんど行われていません。一方、トランス女性が外観要件を満たすには手術が必須とされており、生殖不能要件とあわせて、陰茎と精巣の切除がなされています。
体にメスを入れることを強いるという意味で、手術要件の二つは一体です。国際的には、性別に関する自己決定権やリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)であるSRHRを尊重し、性別変更の要件から手術を外す流れがあります。しかし、最高裁第二小法廷は、2019年に生殖不能要件を現時点では合憲と判断しています。生殖不能要件だけでなく、外観要件もSRHRに著しく反しているとの考え方が主流になりつつあります。

(2023年9月28日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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