持続可能な農業による温暖化対策

農業は、気候変動の被害者であり加害者でもあります。気候変動に関する政府間パネルによれば、世界の温暖化ガスの22%は農業・土地利用から排出されています。自動車や飛行機など交通・運輸からの排出は15%です。CO2より強力な温室効果があるメタンガスでみると、排出量の約40%は家畜の反すうや水田利用などが原因です。CO2を吸収する熱帯雨林の伐採が問題となっていますが、森林破壊の約80%は農業生産のための土地開発と言われています。
世界人口は約60年間で2.6倍に増え、既に80億人を突破しました。この間に小麦やコメの生産量はなんと3.6倍に拡大しています。急激な人口の伸びや豊かな生活を支えるための食料増産が、環境に負荷をかけています。この食糧生産量は人口増加率を上回っています。
食料供給に関わる農業は温暖化対策の聖域とみなされてきました。しかし、日米欧を含む150カ国以上が、農業・食料システムを温暖化対策に組み入れ、取り組みを強化すると約束しています。持続可能な農業・食料システムへの変革こそが、最も効果のある温暖化対策になります。
牛のゲップが温暖化ガスになることはよく知られています。デンマークは、6月に家畜からの温暖化ガスについて農家に課税する制度の導入を決めました。家畜の飼育数を合理的に管理し、持続可能な農業に移行するためです。コメづくりが盛んな日本においては水田からのメタン発生をどう抑えるかが課題となっています。メタン対策として注目されているのが中干しの延長です。
世界で生産された食料の3分の1が流通や小売り、家庭で廃棄されています。無駄になる食料が減れば、それだけ肥料や輸送などから排出される温暖化ガスを抑えられます。OECDは、食品ロスを半分に減らすだけで、農業からの温暖化ガスの排出を4%削減できるとみています。野菜・穀物・果物の食品ロスが多く、乳製品は5%、肉類は3%しかありません。傷みやすさもありますが、価格が高めの乳製品や肉類は捨てずに食べている傾向がうかがえます。

(2024年7月29日  日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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