普遍的現金給付の意義を考える

2024年度税制改正では、1人あたり所得税3万円、住民税1万円の定額減税が決定しました。一部の高所得者層を除くすべての所得層に対する減税といえます。コロナ禍における特別定額給付金以来、一時的な家計支援が頻繁に実施されるようになりました。これらの支援策の特徴は、対象者を国民全体としてとらえていることです。こうした普遍的な手法は家計支援だけではなく、子育て支援策でも、児童手当の所得制限が撤廃されるほか、3~5歳児に保育無償化も実施されています。
背景にあるのは、物価上昇や円安などで膨らんでいる国民の負担感です。国民生活基礎調査によれば、2022年から2023年にかけて、生活が苦しいと感じる世帯は51.3%から59.6%に増えています。今や全世帯の約6割が、生活が苦しいと訴えています。こうした国民感情に煽られる形で、政府は小出しの現金給付策を講じています。しかし物価上昇が一時的なものでなき限り、こうした単発の家計支援は一時的な気休めに過ぎません。これは一種の感情政治(Emotional politics)です。
2023年国民生活基礎調査でみた世帯ごとの可処分所得(税・社会保険料などの支出後)の分布をみると、貧困線である180万円から大きくかけ離れる世帯がいかに多いかが分かります。これらの世帯では、給付金や補助金がそのまま以前消費していたものに使われるとは思われません。多少苦しくても新しい物価体系に対応して、省エネを進めたり消費行動を変化させたり、働いていなければ働き始めたりすることなどにより、日本経済を刺激することが必要です。一時的な現金給付は、そうした変容を遅らせるとも思われます。
低所得世帯の過半数は高齢者世帯です。低年金の高齢者については、2019年から年金生活者支援給付金制度が導入され、月々5千円ほどの上乗せがありますが、それでも多くが低所得です。貧困の高齢者世帯にはより丁寧にかつ恒常的な対策が必要となります。
低所得の子育て世帯に、学校にかかる費用を援助する就学援助費という制度があります。そもそも、全ての子どもに習字セットや絵の具セットを新品でそろえるのではなく、備品として学校に整備しておけば、就学援助費を縮小できます。公共投資をすることで人々の生活の必要経費を下げることができます。親がお金をかけなくても子どもの将来に影響しないように、公教育への投資を充実させることが必要です。

(2024年7月26日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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