異種臓器移植への道

異種臓器移植研究の歴史は古く、免疫抑制剤の使用によるヒトの同種移植の成功を背景に、霊長類からの異種移植も数多く実施されるようになりました。1963~64年にかけては、チンパンジーからの腎移植やヒヒからの腎移植が行われています。また心臓、肝臓においても、チンパンジーの臓器を用いた移植が行われました。しかしながら、多くは数時間から数日で機能廃絶に陥っています。
そうした時代を経て、免疫抑制療法の発展によって移植医療が定着し始めた1980年代後半においては、移植臓器の需要が増加したことから、問題解決に向けた異種臓器移植への期待がさらに高まりました。1984年にはヒヒからの心臓移植、1993年には肝移植が行われ、それぞれ20日、70日生着したと報告されています。一方で、倫理的問題、感染症の危険性から、霊長類を用いた移植は望ましくないとされ、ブタを用いた異種臓器移植が検討されるようになりました。
ヒトに近い霊長類からの移植と異なり、ブタからの臓器移植では、移植臓器が拒絶される超急性拒絶反応の存在が障壁となります。しかし、解剖学的、生理学的、血液生化学的にヒトに比較的近いとされ、繁殖能力が高く、妊娠期間も短いことから、安定的に供給可能という点で優れています。1994年に初めて遺伝子導入動物の作出技術がブタに応用され、2002年に主要異種抗原であるαGal抗原の生成酵素であるα1,3 galactosyltransferaseをノックアウトしたブタが作出されました。
しかし、培養細胞レベルではありますが、ブタの内在性レトロウイルス(PERV)がヒト細胞に感染することが報告され、未知の感染症への対策に関して十分な議論を行う必要性が生じました。また、遺伝子組換えブタを用いても拒絶反応を克服できず、臨床応用できないと判断されてきました。その後、ゲノム編集技術が登場して、短期間で多種類の遺伝子を改変したブタの作出が可能になり、PERVフリーのクローンブタが作出されるようになりました。現在では、10か所を改変したブタが作製されました。2023年10月、Nature誌にてブタからサルへの腎移植で758日の生着を認めた報告がなされました。
現状、国内では、異種臓器移植用にゲノム編集された遺伝子組換えブタは生産されていません。米国で検証が続く遺伝子組換えブタの国を越えての移動は、カルタヘナ法による制約が生じるために、遺伝子組換えブタ由来の細胞を輸入し、日本国内で核移植を行って作出する必要があります。加えて、作出したブタを繁殖させるクリーン施設もありません。初期投資の部分が非常にネックになります。異種臓器移植が臨床応用されるまでには時間がまだまだかかります。

(週刊医学界新聞 2023年11月6日 第3540号)
(吉村 やすのり)

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