2006年GluckmanとHansonは、「発達期にある個体では、置かれた環境の変化に対応するために発達期に可塑性(developmental plasticity)を有する。この可塑性は、発達が完了した時期の環境と適合すれば健康に生活でき、適合しなければ成人期のさまざまな疾患の源となる」というDOHaD (Developmental Origins of Health and Disease)仮説を提唱した。発達期の可塑性をもたらすのは、感受期の環境が引き金となり、遺伝子に起こるエピジェネティック変化であり、しかもこの変化はおおよそ3世代にわたり連鎖すると考えられている。DOHaD仮説は胎児プログラミング仮説の限界を合理的に説明できるため、現在広く浸透している。
環境によってもたらされるヒトへの影響を決定するのは遺伝子と環境の相互作用であり、発達期の可塑性は、環境によってDNA塩基配列変化を伴わず、おおよそ第3世代までの子孫へと伝達される遺伝子発現調整の変化(エピジェネティック変化)によりもたらされた表現型である。エピジェネティック変化による影響は、出生後直ちに出現するとは限らず、遺伝子を介して環境への対処が必要になった場合、たとえば、成人期になって運動不足にもかかわらず過剰な食事摂取をするようになったとき出現してくる。
(吉村 やすのり)