がん患者自身の免疫細胞を改造して治療に使うCAR―T細胞療法が、2019年の公的医療保険の適用から5年が経過しました。CAR―T細胞療法は、患者の血液から、がん細胞を攻撃する能力があるT細胞を採取し、遺伝子導入をしてから体内に戻す新しい治療法です。
対象のがんの種類や実施施設は増え、実績も積み上がってきています。遺伝子導入によるT細胞の改造が治療のカギとなっています。T細胞は改造によって、がん細胞の表面に出たCD19という分子を敵の目印とみなすようになります。体内に戻し、目印を見つけたT細胞は、何倍にも増えてがん細胞を攻撃します。現在対象となっているのは、血液がんの一部に限られています。
治療の成否のポイントの一つはスピードです。CAR-Tの製造工場は主に米国にあり、製剤化には1~2カ月ほどかかります。対象患者の病気の進行が早く、手遅れにつながる可能性もあります。二つ目のポイントは、CAR-Tの材料となる細胞を、できるだけ良い状態で採ることです。再発患者では通常、複数の抗がん剤で徹底的にがん細胞を攻撃します。患者自身の細胞へのダメージが大きく、製剤の品質に影響します。
リスクもあります。投与後、高熱などが出るサイトカイン放出症候群や神経毒性による一時的な意識障害が出る可能性があります。また、CAR-Tの薬価は、1回の投与で約3千万円と現在も高価です。保険適用の範囲が広がれば医療保険財政への影響が出ます。
治療の対象が、今後拡大する可能性があります。候補の一つは、全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患です。免疫細胞が誤って自分自身の細胞を攻撃して起きます。この免疫細胞にも、CAR-T細胞が敵の目印とみなす分子CD19が出ているため、CAR-Tによる病気の原因の除去が期待されます。固形がんへの応用を目指した研究も国内外で進められています。
(2024年11月30日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)