受精卵から作るES細胞を患者に移植する国内初の臨床試験計画が国立成育医療研究センターで始まりました。対象となるのは、有害なアンモニアを分解する酵素が生まれつき肝臓にない高アンモニア血症の赤ちゃんです。日本では年間約10人ほど見つかる難病で、治療法は肝臓移植ですが、体重6㎏になるまでは実施できません。それまでに死亡する例もあります。
治験では、まずES細胞から正常な肝細胞を作って赤ちゃんに注射し、肝臓に生着させて、肝臓移植ができるようになるまで重症化を防ぎます。ES細胞を使えば、移植が必要な時に肝細胞を用意できます。そのため、肝臓移植までの橋渡しとなる治療法となります。
人のES細胞は1998年に米国で初めて作られました。ES細胞は受精卵を使うという倫理的な問題から、体細胞から作る人工の多能性幹細胞iPS細胞が2006年に登場した後は国の予算がiPS細胞研究に集中し、臨床研究もiPS細胞が先行しました。しかし、米欧や中国、韓国では、脊髄損傷や糖尿病、目の難病に対してES細胞の治験が数多く行われています。
わが国ではES細胞が追いやられ、海外の後塵を拝するようになってしまいました。しかし、ES細胞は品質の安定性が高く、これまで蓄積された知見は、iPS細胞研究にも活用できます。日本も海外のように、ES細胞とiPS細胞のどちらも研究していくことが重要です。
(2018年5月1日 読売新聞)
(吉村 やすのり)