子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を防ぐワクチンについて、厚生労働省は、対象者に接種をすすめる積極的勧奨の再開を決めました。国が積極的勧奨を中止したのは、定期接種が始まってわずか2カ月後となる2013年6月でした。接種後に体の広い範囲が痛んだり、記憶障害が出たりするなどの多様な症状が報告されたためでした。
厚労省の部会は、2021年11月に現時点で、ワクチン接種後に生じた多様な症状と、HPVワクチンとの関連性を示す研究結果は確認されていないと評価し、再開を決定しています。今回の再開は約8年ぶりとなります。
HPVワクチンの成分はウイルスの殻で、ウイルスそのものではありません。しかし、殻だけでは十分な免疫がつきにくく、免疫を活性化させるための成分をワクチンに加えています。そのため免疫の反応で炎症が起き、接種部位が痛む場合があります。また、接種時の痛みや不安が、一時的な不調の原因になることがあります。
思春期はとくに接種時に緊張し、失神などの血管迷走神経反射を起こしやすいとされています。WHOは、HPVワクチンに限らず、様々なワクチンの接種直後に息切れや立ちくらみ、めまい、失神など、接種からしばらくして脱力やまひなどが起きることがあると報告しています。予防接種ストレス関連反応と名付けています。接種に対する極度の不安などが引き金になる可能性があります。医師が、接種時にワクチンの特徴や痛みの説明などを本人のみならず保護者にも丁寧に伝えることが大切です。
HPVは性器の細胞などに潜み、主に性交渉によって感染します。このため、予防効果が最も期待される接種時期は、初めての性交渉前とされています。英国の臨床研究によれば、12~13歳のときに接種した世代は、接種していない世代と比べ、子宮頸がんになるリスクが87%低くなっています。167万人を調べたスウェーデンの調査では、16歳までに接種した人では、接種していない人に比べ、子宮頸がんになるリスクが88%低かったことが示されています。性交渉の経験があっても、HPVに感染しているかどうかわからないため、ワクチンを接種したほうがよいとされています。
(2022年1月12日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)