5月1日の毎日新聞の報道によれば、子宮頸がんを予防するHPVワクチンの接種者数が大幅に増えていることが、厚労省の集計で1日までに分かったとしています。2016年ごろには接種率が1%未満と低迷していましたが、その後は増加傾向が続いていましが、昨年10~12月は特に多く、担当者は接種率が20%近かったと話しています。増加の理由は定かではないが、自治体や専門家の情報発信や厚労省によるワクチン情報冊子の配布が、影響した可能性があるとしています。
HPVワクチンの現在の接種率は20%に達すると厚生労働省の担当官が述べた旨の報道がなされているところです。これは、一定期間の推計接種人口(出荷本数÷接種回数)を分子に、また特定の年度内に行われたすべての接種が標準接種学年1学年のみによって行われたものと仮定した上で、標準接種学年1学年分の人口を分母にとり、接種率を算出しているものです。当該計算方法に誤りはないものの、定期接種対象者の5人に1人が既に接種を受けているとの誤解に基づく過大評価を招きかねない評価手法です。
現時点での累積の接種率を推計することは必ずしも容易ではありませんが、製薬企業のワクチン本数の出荷数からの類推によれば、令和2年度末時点での定期接種の対象者としての接種率は、対象の5学年の平均として3.6%程度、対象者としては接種率の最も高い最終学年に相当する高校一年生に限っても10.2%程度とされています。
WHOでは、HPVワクチンの接種率をモニタリングすることの重要性を強調しており、モニタリングの主な目的は、接種率を追跡確認した上で最大化し維持することであると述べています。その上で、HPVワクチンの接種対象年齢幅の広さ、さらには高い年齢層にキャッチアップ接種を実施する状況等も鑑み、接種回数別、年齢別の接種状況を把握する必要性が指摘されています。すなわち、定期接種期間の終了時における接種完了者の割合を反映した累積の接種率を算出し、評価することにしています。WHOは、2030年に達成すべき定期接種の中でのHPVワクチンの目標接種率を90%としており、現在の我が国の状況と比較していまだ大幅な乖離がみられます。
今回のHPVワクチン接種率20%との報道は、昨年の自治体からの各個人に対するリーフレットの個別送付の効果があったとも思われますが、もし今年対象者に再度通知などが出されなければ、10%を維持することは困難と思われます。そのためにも、HPVワクチンの必要性や意義を啓発するとともに、一日も早い積極的勧奨の再開が望まれます。今回の正確と思えない推計の接種率報道をみても、わが国のワクチン行政、ワクチン接種率のモニタリング手法の稚拙性が露呈されています。各自治体におけるワクチン接種に関するデジタル化は全く進んでいません。
(吉村 やすのり)