iPSとゲノム編集による脳腫瘍治療

慶應大学の研究チームは、iPS細胞にゲノム編集で特殊な遺伝子を入れて、悪性の脳腫瘍を治療する研究を進めています。2026年の臨床応用を目指しています。脳に入れた細胞が腫瘍を巻き込んで一緒に死ぬため、iPS細胞を使った治療で心配されるような入れた細胞ががん化するリスクはないとされています。
治療の対象は、膠芽腫という悪性度の高いがんです。脳腫瘍全体の1割程度を占め、手術で取れる範囲を除去し、抗がん剤や放射線を使う治療が標準ですが、5年生存率は約10%と低率です。
遺伝子を自在に入れられるゲノム編集の技術と組み合わせて、iPS細胞を改良する方法を用いています。酵母には、抗菌剤の成分を取り込んで抗がん剤の成分に変えてから、自らは死ぬという働きを持つ遺伝子があります。この遺伝子を入れたiPS細胞を、神経幹細胞に変化させます。神経幹細胞を脳に注入すると、腫瘍に到達し、細胞が行き渡ったところで、抗菌剤を服用します。血液を通して脳に到達した抗菌剤を元に細胞が抗がん剤を作り、腫瘍とともに死滅するという仕組みです。抗菌剤、抗がん剤とも既に広く使われているもので、安全性は確立しています。
今回の遺伝子を組み込んだiPS細胞について、他の病気にも使えるかもしれません。別の部位のがんに対して、それぞれの部位に向かう性質のある細胞に変えて同様の方法でがんを退治できる可能性があります。今後はゲノム編集したiPS細胞、という遺伝子治療と再生医療の技術の組み合わせが広がっていくかもしれません。

(2022年4月26日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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