iPS細胞を使って、がんを治療する試みが進んでいます。iPS細胞からNK(ナチュラルキラー)T細胞と呼ばれる免疫細胞を作ります。NKT細胞は血液に含まれ、様々ながんを攻撃する働きがあります。治療では、健康な人のNKT細胞からiPS細胞を作った後、再びNKT細胞を大量に作製して患者に投与します。iPS細胞を使えば、大量に安定してNKT細胞が供給できます。免疫細胞を大量に増やせるiPS細胞を使えば、品質のそろった治療用の細胞が大量に手に入ることができます。
iPS細胞を使ったがん治療は米国が先行しています。すでに遺伝子を改変したNK細胞など5種類の免疫細胞を使って、血液のがんなど7件の治験を進めています。国内でも、患者で治療を試みる計画が進んでいます。
免疫細胞を用いたがん治療は、血液がんで効果が高かったのですが、これまで肺がんや食道がんなどの固形がんでは効果がみられませんでした。しかし、iPS細胞から作った免疫細胞は、増える能力や免疫の働きを持つ物質を多く分泌するため、固形がんにも高い治療効果を持つ可能性が出てきています。患者自身の免疫細胞を使うことにより、がん細胞への攻撃力も高く、固形がん治療の突破口になると期待されています。iPS細胞と同じように増殖する胚性幹細胞(ES細胞)を活用する動きもあり、京大ウイルス・再生医科学研究所が計画しています。
(2020年7月24日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)