iPS細胞による再生医療の研究

iPS細胞を使った再生医療の研究が進んでいます。iPS細胞による世界初の再生医療の臨床研究は、2014年、理化学研究所が目の難病、加齢黄斑変性を治すためiPS細胞から作った網膜の細胞を患者に移植しました。今回は京都大学iPS細胞研究所が備蓄する他人のiPS細胞を心筋細胞に育てます。他人の細胞なら患者が早く移植を受けられます。臨床研究で安全性が確認できれば、実用化に向けて効果を確認する医師主導治験を目指しています。
 今後、京都大学のグループは、パーキンソン病の治療を目指す医師主導治験を2018年度中にも始める計画です。ドーパミンを出す神経細胞を他人のiPS細胞から作製し移植します。また、慶應義塾大学のグループは脊椎損傷の患者を治療する臨床研究計画しています。神経のもとになる細胞を他人のiPS細胞から作製して脊椎損傷した部位に移植して回復します。京都大学iPS細胞研究所も血が止まりにくい難病である血小板減少症の臨床研究を計画しています。iPS細胞をめぐっては、こうした再生医療とは別に、薬の候補を探す創薬としての活用も同時に進んでいます。
一方、iPS細胞はがん化の恐れがあり、安全性の懸念など課題も残っています。実際にヒトの命が救えるものかはまだ未知の段階です。健康リスクや安全性の検証などを同時に行うことが大切です。また、今回の心筋シートでは、他人の血液をもとにしたiPS細胞を利用します。患者本人のものに比べ、シートを移植するまでの時間が短く、コストも抑えられますが、拒絶反応が起きないように免疫抑制剤を使う必要があります。腫瘍が確認されれば、その時点で免疫抑制剤の使用を中止しなければなりません。免疫抑制剤の使用により、腫瘍が増大する危険性があり、課題はたくさんありますが、長い目で再生医療を育ててゆくことも大切です。

 

(2018年5月17日 日本経済新聞・朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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