iPS細胞による受精卵作製

 ヒトの受精卵や、受精卵から胎児になる途中の胚は、子宮にあれば胎児となりヒトとして誕生する可能性があります。日本では受精卵や胚をヒトの生命の萌芽と位置づけて、研究目的の作製と利用を厳しく制限しています。しかし、ヒトが1つの受精卵から細胞分裂を繰り返していく発生初期の理解を深めることは、不妊症や遺伝性疾患の原因解明などにとって大切です。内閣府の生命倫理専門調査会は、iPS細胞から作製した生殖細胞を受精させる研究については、必要と言える研究段階に達していないなどとして解禁を見送ってきました。

 しかし、近年の研究の進展を受けて、調査会は容認へ向けた議論を始めています。万能細胞から作った生殖細胞を受精させた受精卵や胚の位置づけについて、子宮にあれば胎児となり、ヒトとして誕生し得る存在になると考えられることから、ヒト胚と同様に取り扱うべきだとしています。

 万能細胞由来の生殖細胞を受精させる技術が確立すれば、生殖医療の発展に貢献する可能性があります。不妊に悩む患者が自分のiPS細胞から生殖細胞を作って受精させることで、遺伝的につながった子どもをもうけられます。ヒトの万能細胞由来の精子と卵子から受精卵を作製する技術の確立にはまだ時間がかかりますが、研究は着実に進んでいます。

 調査会で研究が容認されたとしても、臨床応用しないことが前提になります。今後認められる研究目的や範囲などについて検討することになります。

(2024年12月12日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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