京都大学発新興のシノビ・セラピューティクスは、iPS細胞から免疫細胞を作り、肺や肝臓のがんをたたく治療法の臨床試験を2026年末に国内で始めます。備蓄してあるiPS細胞を使うため安く迅速に治療できる可能性があります。2030年頃に日本や米国での実用化を目指すとしています。
他人由来のiPS細胞を、がん細胞を攻撃する免疫細胞であるキラーT細胞に育ててがん患者に投与します。キラーT細胞は、ウイルスやがんなどに侵された体内の異常な細胞を攻撃して排除する免疫細胞の一種です。別の免疫細胞であるヘルパーT細胞の指令を受けて実際に細胞を殺す役割を担っています。異物として認識した細胞をまるごと破壊することから殺し屋とも言われます。
非常に強い攻撃力を持つことから、感染症やがんなどの治療薬としての開発が進んでいます。患者自身のキラーT細胞を取り出し、がんへの攻撃力を高めて体に戻すCAR-T細胞療法も実用化されています。国内では、スイス製薬大手のノバルティスが開発したキムリアや、米ギリアド・サイエンシズが開発したイエスカルタなどが販売されています。キムリアやイエスカルタは1回の投与費用は3,000万円近くかかります。
今回の治験は、コストを下げるために別の健康な人の細胞からキラーT細胞を大量に作り蓄えておく手法です。

(2025年4月12日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)