慶應大学の研究チームは、脊髄損傷による体のまひを治すために、iPS細胞からつくった未熟な神経細胞を患者に移植する臨床研究で、移植を受けた4人のうち2人で一部の運動機能が回復したとする結果を発表しています。慶應大学発のベンチャーであるケイファーマは、より多くの患者を対象に安全性や有効性を検証する治験を実施する予定です。
脊髄は脳と体の各部をつなぐ神経の束で、交通事故などで損傷すると、運動や感覚の機能がまひする障害が出ます。国内に10万人以上の患者がいるとされ、リハビリ以外に確立した治療はありません。脊髄損傷では、iPS細胞を神経のもとになる細胞に変えて移植する手法は世界初の試みで、注目を集めてきています。
今回の臨床研究は、脊髄が損傷してから14~28日経ち、体の一部の運動機能が完全に失われている患者が対象です。計4人に移植し、リハビリもしながら1年間の経過観察をしています。その結果、2人は一部の運動機能が戻るまで回復し、うち1人は補助を受けながら立つ姿勢をとることができ、歩行に向けた訓練もしています。移植した細胞ががん化するなどの安全上の懸念はみられていません。
リハビリでも運動機能が一部回復する人は約10~12%みられるため、今回の研究では移植人数が4人と少ないため、統計的に有効性があるのかどうかは判断できません。

(2025年3月22日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)