iPS細胞の治療応用は、他人の細胞を使う新段階に入ります。これまでのiPS細胞は、患者自身の皮膚や血液の細胞から作っています。というのも、患者本人の細胞を使えば拒否反応が起きないためです。しかし、患者の細胞を使って実施した1例目の移植には、5,000万円~1億といった多額な費用がかかりました。このことが、iPS細胞を利用する再生医療の普及に向けた大きな課題となっていました。
このたび京都大学などは、他人の血液や皮膚などの細胞からiPS細胞を作り、凍結保存するiPSストックを整備し、他の研究機関に細胞を配る事業を進めようとしています。備蓄細胞を使うことで、コストは1000万円を切る可能性があります。備蓄した細胞を使うと、治療を始めるまでに要する期間を1例目の1年近くから半年に短縮することも出来るようです。しかし、他人の細胞から作ったiPS細胞を使うと、拒否反応が懸念されます。これに対して、拒否反応が起こりにくい免疫タイプのiPS細胞を用いることで対応しようとしています。いずれにしても課題は残りますが、iPS細胞の治療応用が新段階に入り、大いに期待されます。
(2015年3月21日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)