iPS細胞の臨床研究

 理研化学研究所は、iPS細胞を使った世界初の移植治療の臨床研究で、2例目の移植手術を見送りました。患者から作成したiPS細胞に、複数の遺伝子変更が見つかったためです。この臨床研究は、加齢黄斑変性と呼ぶ高齢者に多い目の難病患者が対象です。患者自身の細胞からiPS細胞を作り、さらにシ-ト状の網膜色素上皮細胞に育てたうえで、患者の目に移植するものです。事前に細胞の遺伝子を詳しく調べ、がん化などの恐れがないと判断した昨年9月に1例目が実施されています。手術後は視力低下を抑えられ、今のところがんもできていないといわれています。
 研究チ-ムは2例目も同様の手法で移植する方針で、昨年のうちに患者の細胞からiPS細胞を作り、網膜細胞を培養していました。しかし、iPS細胞の遺伝子を解析したところ、がん化に関わるとされる遺伝子変異が複数見つかったとのことです。加えて、父母からそれぞれ受け継ぐ遺伝情報のペアの片方が欠ける変化が一部でみられました。今後は、京都大が備蓄している他人から作ったiPS細胞を使って臨床研究を続ける意向です。備蓄細胞は遺伝子変異が少ないことを確認しているほか、必要なときにすぐに使え、コストも大幅に低減できるといった利点があります。まだiPS細胞細胞が臨床応用できるには安全性を含めいくつかの超えなければならないハ-ドルがあります。

(2015年6月17日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

 

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