生物学の常識を覆す世紀の大発見ともて囃された華々しい発表から一転、研究内容を全面否定された、いわゆるSTAP細胞問題は、1年以上にわたってわが国の科学界を揺るがし続けましたが、2015年3月理化学研究所(理研)は終結を宣言しました。
2014年12月理研は、STAP細胞は存在せず、別の万能細胞であるES細胞の混入によるものであったと結論づけました。しかし、だれが何の目的で混入したのか、肝心な経緯は未解決のままです。小保方氏による計4件の捏造や改ざんが認定されましたが、不正の動機や共著者の関与については不明な点が残されたままです。2012年にネイチャ-・サイエンス各誌に論文投稿し不採択になった際に、採択された論文と同様に図を再構成しているとの査読者の指摘があったとのことです。通常、査読で指摘された点については実験を追加したり、書き直したりして論文を仕上げることになっています。有能な指導者が多数いたにも拘わらず、直されていなかったことも不可解です。
外部有識者からなる理研の改革委員会は、このような不正な論文が投稿されてしまった原因の一つに成果主義の負の側面を上げています。成果主義は研究競争を促す一方で、研究者や研究機関を重圧にさらすことになります。有名雑誌への論文掲載など目立った成果をあげなければ研究費を獲得できず、思うような研究が続けられなくなります。理研の約3千人の研究者の9割近くが、5年程度の任期付き雇用です。理研は終身雇用の比率が極端に低く、国際的にもまれな存在です。短い任期期間の内に成果を出さないと、次がないという環境の中では不正が生まれやすくなります。
もう一つの原因は、理研の体制にあります。理研は、予算などをより自由に使えるよう優遇する新制度「特定国立研究開発法人」への指定を目前に控え、iPS細胞研究に勝る画期的な成果を獲得したいと考えていたことも事実です。不正調査についても、できるだけ早く最終的な結論を得るよう求めたのではないでしょうか。悲願の法人指定に花を添えたいとの思惑もあったと思われます。
理事長の会見では、理研の研究者個人の責任を追求する場面がみられ、被害者意識が垣間見られました。小保方氏が客員であった時に研究者としても資質が見抜けず、特別な配慮でユニットリ-ダ-として雇用した点にも重大な瑕疵がありました。バーバ-ド大学から持ち込まれた研究で、自分達は被害者であることを主張しているようにも見えます。小保方氏やその指導者たちの責任を追求するだけなく、理研自体の構造的な問題点に切り込まない限り、再発を防止できないのではないでしょうか。
(吉村 やすのり)