私立大学院教育の充実

 現在、私立大学は学部段階で約8割の学生を担う一方、学部卒業生の大学院進学率は国立の約37%に対し、私立では約7%にとどまっています。私立大学の大学院活性化なくしては、博士人材の増加も国際水準への発展も望めません。

 単に私立大学が国立大学を補完すれば良いということではなく、私立大学の強みは多様性にあります。各大学は建学の精神に基づき、特色ある専門分野や教育方法、地域や社会との接点を育ててきています。理工農や医療系分野では、国立大学が量的に極めて大きな割合を占めていますが、私立大学ならではの独自の理念の下で、多様な大学院教育を実施しています。さらに人文学や社会科学分野では、修士課程学生の約7割、博士課程学生の約5割を私立大学が担っています。

 社会課題は高度の専門知を必要とする一方、特定の専門分野の知識だけでは解決できません。大学院は狭い専門家だけでなく、高度専門知を軸に異分野とつながる人材を育てる場になることが求められます。個人の可能性を広げるとともに、社会の成長を促す投資であるという認識を産学官が一体となって育てるべきです。

 大学院生が教育補助者として学部教育に参画すれば、大学院での研究的な学びが学部学生の身近な存在となり、探求的な学びが深まります。大学院教育の活性化は、大学全体の教育力を底上げする重要な方略のひとつです。大学院教育の拡充は、学部教育の質向上にも還元されます。

 大学自身の自己変革はもちろん、社会の側からの支援が不可欠です。企業には大学院修了者の高度専門性と汎用的能力を正当に評価し、採用や処遇を見直して、働き手のキャリア形成の仕組みに反映させるべきです。政府には、国立大学に偏る競争的資金配分の是正、経常費補助における大学院評価の拡充、修士課程の経済的支援の充実が求められます。経営の柔軟性や人材ニーズの変化に敏感に応える力が私大の強みです。

(2026年7月6日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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