新型コロナウイルスはパンデミックとなり、感染と増殖を繰り返し、英国でアルファ型、ブラジルでガンマ型、インドでデルタ型などの変異型が現れてきています。デルタ型は特に感染力が強く、従来型の約2倍と推定されています。現在、世界の感染者のほとんどはデルタ型によるものです。人口の8割がワクチン接種を終えても集団免疫の達成は難しいとされています。
集団免疫とは、免疫を持つ人が集団の中で一定以上の割合になると感染の連鎖が起きにくくなり、流行が収束していく状態のことを言います。集団免疫の達成を左右する要素は大きく2つあります。一つはウイルスの感染力、もう一つはワクチンの効果です。ワクチンの効果を考慮しない場合、集団免疫に必要な接種率の目安は、ウイルスの感染力を表す基本再生産数から単純に計算できます。基本再生産数は免疫を持たない無防備な集団で感染者1人が何人にうつすかを示す値です。
新型コロナウイルスの従来型の基本再生産数は、推定2.5~3程度でした。基本再生産数が2.5だと、接種率のしきい値は人口60%、3では67%となります。これが当初、集団免疫の目安が人口の6~7割と言われてきた根拠です。デルタ型の基本再生産数について、英政府の専門家組織は5~8程度、米疾病対策センター(CDC)は5~9程度と推定しています。デルタ型の基本再生産数が5なら、目安の接種率は80%、6だと83%に上ってしまいます。
集団免疫で重要なのはまず感染予防の効果です。接種完了の人が感染するブレイクスルー感染が起こりにくいほど、流行を抑えられます。たとえブレイクスルー感染しても他人への二次感染が少なければ、感染拡大を防げます。ファイザー製ワクチンの接種後にデルタ型に感染した場合、二次感染を65%減らす効果があるとされています。しかし、2回接種から12週間経つと効果は大幅に低下しています。
感染や二次感染を減らすワクチンの効果は、時間経過で下がってしまいます。デルタ型の基本再生産数を5、ワクチンの有効性を90%とすると、集団免疫の目安の接種率は人口の89%になります。接種率8割と世界トップレベルのシンガポールでも、行動制限を緩和した後に感染者が急増しました。しかし、集団免疫を達成できないとしても、接種率を高める意義は大きいと思われます。重症化を防ぐ効果は高く、医療提供体制への負荷も小さくなります。
(2021年10月18日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)