静かな退職の拡大

 静かな退職とは、実際に退職しなくても、まるで退職しているかのように職場では身を潜め、最低限やるべき仕事だけをこなす働き方を意味します。発症は新型コロナウイルス拡大後の米国だと言われています。自分を偽り無理して働く必要はないと考える人が増え、それがZ世代を中心にSNSで拡散し、新たなライフスタイルとして注目されています。

 マイナビの調査によれば、静かな退職をしていると自認している人は、そう思うと、ややそう思うを足して46.7%に上ります。年代別でみると20代では半数を超えています。静かな退職は、最低限やるべき事はこなすことが前提です。仕事をサボったり、手を抜いたりすることではありません。働き手にとっては、過重労働やバーンアウトへの自己防衛手段という側面もあり、一方的に批判はできません。

 ジョブ型が定着する米国と、メンバーシップ型が基本の日本では、職場への影響が異なるとの指摘もあります。ジョブ型では、最低限やるべき事は職務記述書に明示され、報酬も定められています。一方、メンバーシップ型では誰が何をどこまでやるのか、職務定義が曖昧です。最低ラインが不明確なまま静かな退職を選ぶ人が増えると、同僚の業務負担が増える恐れがあります。

 静かな退職は、主に不一致、評価不満、損得勘定、無関心の4タイプに分類できます。キャリアアップに興味のない無関心層である20.6%に対する有効な手立ては難しいと思われます。その他の3タイプである合計51.8%は、仕事内容や人事制度などが要因です。静かな退職を選ぶ社員を責める前に、企業がすべき取り組みは多数あります。

 リクルートワークス研究所の調査によれば、仕事に満足している正社員は、男女とも50%届かず、他国と大きな差があります。個人の希望が優先されず、仕事に主体的に向き合う姿勢が弱いため、働く喜びも得にくい環境にあるのです。

(2026年6月22日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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