11月に入ると毎年インフルエンザが流行し始めます。今年は昨年のペースを上回っており、流行の年になるかもしれません。パンデミックと呼ばれる世界的な大流行の記録は、1800年代からみられます。1918年のスペインかぜ、57年のアジアかぜ、68年の香港かぜが代表例です。スペインかぜは肺炎などを併発した関連死も含めると、死者は世界で2000万~4000万人に達し、これにより第一次世界大戦が終結したともいわれています。新しいウイルスが流行すると、古いウイルスは消滅するといわれています。
2009年に大流行したHINIによる新型インフルエンザでは、世界中で30万人近くの人が亡くなったと言われています。インフルエンザと産婦人科医は関係ないと思われるかもしれませんが、妊婦はインフルエンザが重症化しやすいと言われています。HINIのパンデミックの際には、日本産科婦人科学会のホームページを通して、直ちに情報発信を始めました。感染が疑われる妊婦は、迅速検査が陰性でもタミフルの投与を始めた方がいいことや、ワクチンは妊婦や胎児に影響を与えないため接種を推奨することなどを伝えました。行政と医療者が全力で対応してくれたおかげで、日本は新型インフルが重症化して死亡した妊婦はゼロでした。これは日本産科婦人科学会の素晴らしい功績であり、世界中から大変驚かれています。
(2014年11月21日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)