現在わが国において樹立されている ES細胞は、ヒト受精卵より樹立されているため、さまざまな細胞に分化させることはできても、ヒトに移植する際には免疫拒絶がおこるため、現時点ではこれを再生医療に使用することはできない。この難点を克服する技術が、核移植操作である。卵子から核を除核し、患者である体細胞の核を移植し、クローン胚をつくり、そのクローン胚からES細胞を樹立する。その樹立されたES細胞は、患者と同じ遺伝情報をもっているため、免疫拒絶はおこらない。将来このES細胞から配偶子が形成されれば、究極の再生医療が成立することになる(図)。
2004年、 2005年に韓国の黄教授は、核移植後のクローン胚より ES細胞 を 樹 立 し た と の 報 告 を ネ イ チ ャ ー 誌 に 発 表 し た 。 そ の 後 の 調 査 でまったくの捏造であり、従来より樹立されていた受精卵より作製されたES細胞であることが判明した。マウスと異なり、クローン胚はヒトにおいて発育させることが難しく、8細胞期前後でその発育を停止し、胚盤胞まで到達しにくいため、ES細胞を樹立することが困難であることが明らかとなった。これ以来、ヒト体細胞クローン胚によるES細胞樹立の研究が中断し、5~6年間全く実施されなくなった。その後2013年、米オレゴン大学がクローン胚によりES細胞を樹立したとの研究成果がネイチャー誌に発表されたが、その写真の一部に偽造疑惑が報道された。この結果の真偽についても未だに疑問が残っている。2014年に私の大学院生が、留学先のニューヨークステムセル研究所で、ついに糖尿病患者より患者の体細胞核移植によるクローン胚からES細胞を樹立した。これはまさしく快挙である
(吉村 やすのり)