1970~1982年頃に生まれた世代は、ロスジェネとも言われます。バブル崩壊後の1990年代半ばから2000年代初頭の就職難の時期に社会に出た就職氷河期世代は、若年期に良好な雇用機会に恵まれなかったため、長期にわたり経済的に不利な立場に置かれてきています。現在、中高年となった就職氷河期世代がこれから直面する問題は、大きく2つあります。独身の低所得者が親に頼れなくなり困窮することと、氷河期世代自身の老後の低年金の問題です。
1つ目の親の加齢に伴う困窮は既に顕在化しつつあります。35~39歳時点での未婚で親と同居する非就業者・非正規雇用者が人口に占める割合を男女・学歴別に見てみると、男性はすべての学歴で若い世代ほど高まっています。1970年代後半生まれの高卒男性では1割を超えており、大卒でも5%程度います。女性は高卒のみ上昇が続いていますが、短大・高専卒や大卒では1960年代後半生まれから5%程度でおおむね横ばいとなっています。
就職氷河期の前半に大学を卒業した団塊ジュニア世代は、その親の団塊世代が後期高齢者となり、介護の問題に直面しています。その下の世代では、親と同居する独身の不安定就業者の割合はさらに高くなっています。独身の不安定就業者が、親の介護と本人の生活を両立できる仕組みの整備は喫緊の課題です。
2つ目の問題は、就職氷河期世代自身の老後の備えです。所得が低ければ当然、老後のための貯蓄が少なく、現役時代の収入が低いと、もらえる年金も少なくなります。現在の年金制度のまま、氷河期世代が高齢期を迎えると、現役時代の厚生年金加入期間や報酬額が十分でなかったり、国民年金の未納期間があったりするために年金額が低く、生活が成り立たない高齢者世帯が増えることが予想されます。
高齢化・非婚化に伴い、親の介護と仕事の両立問題に直面する独身の子は今後も増え続けていきます。介護サービスの拡充や低所得世帯に対する介護保険給付の充実は、氷河期世代だけでなくもっと下の世代も含め、独身の不安定就業者が親の介護のためにさらに収入を減らす事態を防ぐ重要なセーフティーネットとなります。氷河期世代の低年金問題についても、具体的な検討を始めるべき時期に来ています。
(2024年5月10日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)