最近の代理懐胎は、クライエントの夫婦の精子と卵子を用いて受精卵をつくり、その胚を第三者の女性の子宮に移植する体外受精型代理懐胎がほとんどである。2008年には、独身男性(契約後に離婚)がインドで代理懐胎を実施。母親がいないとのことで一時は子が帰国できないことで大きな問題となった。以前はわが国の代理懐胎を希望するクライエントは渡米することが多かったが、費用の観点から最近ではタイやインドなどのアジア諸国で実施することが多くなっている。借金を抱え貧しいがゆえに代理懐胎を引き受ける女性が増えてきており、女性を子どもを産むための道具として考えて良いのかといった倫理的にも大きな問題を投げかけている。
代理懐胎を巡るトラブルは世界中でたくさん発生している。以前は人工授精型の代理懐胎が多かったため、出産した女性が子どもの引き渡しを拒否するケースが見られた。しかし、最近では今回のケースのように子どもに異常があった時に引き取りを拒否することがしばしば見られるようになってきた。また、代理懐胎をした女性が死亡したり、胎児に障害が見つかったため中絶を強要したり、多胎妊娠の際に減数手術を巡るトラブルなどが発生している。わが国においても2008年に61歳の祖母がわが子のために代理出産したことが報道され、母親に非生理的な妊娠をさせて良いのかが大きな問題となった。代理懐胎には倫理的な問題のみならず、妊娠分娩に伴う医学的なリスクがあることも忘れてはいけない。
(生殖医療と生命倫理:吉村泰典)
(吉村 やすのり)