政府は、近年保育の充実を少子化対策の柱に据えてきました。2015年度以降に限っても、保育所新設などに投じた国費は1兆円を超えています。2023年までの10年間で、企業が自社内で整備する分も含めて、受け皿は約82万人分増えました。最大2.6万人に膨らんだ待機児童数は10分の1に縮小しました。しかし、少子化の加速を背景に、全国の認可保育所の申込者は、2020年をピークに減少に転じました。利用割合は2022年に9割を切りました。
日本経済新聞の調査によれば、過去5年で定員を拡大したのは半数近い834自治体に及びます。国の補助金を追い風に、枠は29.8万人分広がりました。しかし、利用者の伸びは16.2万人にとどまっています。積み増したうち4割以上が空いています。3割の自治体はむしろ利用者が減っています。
都内においても入所者が少なく、定員割れの保育所が多くなっています。政府や自治体は前例主義の甘い見通しによる事業で無駄を膨らませ、事後検証もおざなりのままの状態です。急速な人口減少で税財源の先細りは避けられません。確かなエビデンス(根拠)に基づく政策づくりが根づかなければ国の傾きはとまりません。社会保障もインフラ整備も住民や地域のニーズに全て応える余裕はありません。身の丈に合わせ何を選び、何を諦めるのかが必要になってきます。
(2024年7月17日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)