処方薬のネット販売

調剤薬局は、報酬改定による利益率悪化や、オーバーストアの問題、上場大手へのアクティビストによる再編圧力に直面しており、大きな転換点を迎えています。調剤薬局の収益は、薬価と仕入れ額の差額や処方箋に基づいて薬を出すことで支払われる国が定めた調剤報酬が中心です。2022年度の調剤医療費は、前年度比2%増の約7兆8,000億円で高止まりしています。高齢化進展を受けて医療費増が見込まれる中、報酬や薬価はさらに引き下げられる可能性があります。
アマゾンジャパンが、2024年内にも日本で処方薬のネット販売に乗り出します。ドラッグストア国内最大手などとの連合形成を受けて、足元でも苦境にある調剤薬局を巻き込み、オンライン診療や薬販売を巡る競争が激しくなります。新サービスでは、アマゾンのスマートフォンアプリなどで処方箋を登録して購入手続きをすると、アマゾンの配送網で薬を届けます。アマゾン側は在庫を持たず、飲み方や注意点の説明などの服薬指導を含め、主にウエルシアなど各薬局に任せます。
処方箋が必要な医療用医薬品は医師が処方し、薬剤師が調剤します。飲み方などの説明が必要なため、服薬指導なしでネットで処方薬を購入することはできません。新サービスでは、患者はオンラインなどで医師の診療を受けた後、処方箋を取得・登録します。それをもとに主に店舗の薬剤師がオンラインで服薬指導します。患者は医療機関や薬局に行く手間をなくせるほか、受け取りの順番を待つ時間も省けます。
アマゾンは、薬販売で先行した米国で、薬局大手と競合し、すでに存在感を高めています。ゆくゆくは薬の調達などで世界のサプライチェーンを活用するかもしれません。国内の既存の調剤薬局などは、アマゾンへの備えを急がなければ、足をすくわれる可能性が高くなります。

 

(2024年7月23日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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