北欧の出生率の低下に憶う

男女平等や仕事と子育ての両立支援に力を入れてきた北欧諸国でも少子化が進んでいます。フィンランドは2023年に出生率が1.26に落ちています。人には種の保存の本能があります。本能に基づく性欲により種は続いてきています。しかし、近年、リアルな性交渉ではなく手軽な娯楽により生活が満たされるようになっています。
国連調査において、界で最も幸せな国とされるフィンランドでも低出生率なのは、生きる価値が変わってきたからです。子を産み、家族と暮らす。これを当たり前とする価値観ではなく、個人の選択、生き方を尊重することが求められるようになってきています。家族に優しい北欧型の政策が今も重要なのは間違いありません。しかし、北欧諸国が比較的高い出生率を維持していた時代と、今はグローバリゼーションやデジタル化の進展度が違います。今後は北欧の政策をなぞるだけではなく、構造的な部分にアプローチする政策が必要となります。
これまで歴史の大半で女性は2~3人の子どもを産んできました。しかし、教育や相続が重要になると、子どもの数を制限するようになります。そしてついに子どもを全く産まない人が増えてきています。今の若者は教育水準が高く、キャリアを優先します。一定の実績を積み上げるには時間がかかります。気づいた時にはもう35歳や40歳となり、パートナーの不在や生殖能力の低下などにより子どもを持てない現実に直面します。
価値観や社会構造の変化に、伝統的な家族政策では十分に通用しない時代になっています。フィンランドは育児休業や託児所、住宅などの手厚い子育て支援で成功したと一時は言われていました。しかしこうした政策は2人目、3人目の子どもを産む後押しになるものの、1人目を促す効果は弱いと思われます。子づくりを含めた人生設計を若者たちに正しく伝えるべきであり、家族を持ちたい場合の計画の立て方を、教育やキャリアプランも含めて教える必要があります。親になることが素晴らしいと若者に思わせる必要もあります。
将来推計人口では、2100年にわが国の人口は現在の約1億2,400万人から半減し、約6,300万人となる見通しです。民間有識者らで構成する人口戦略会議は、2100年に8,000万人国家を実現するよう提言しています。いずれにせよ、子どもを持ちたい人の願いを叶えて人口減少の速度を緩めつつ、経済成長と幸せな縮小方法の両立を考える時期に来ています。親になることが素晴らしいことで、社会的ステータスだという認識が広がれば、状況は変わるかもしれません。

(2024年8月4日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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