がん治療の影響で不妊になるのを避けようと、卵子をつくる卵巣組織を凍結保存しておき、治療後に戻す方法が試みられています。卵子の採取に比べ短期間で保存でき、より多くの卵子が残せる利点はあります。しかしながら、まだ研究の段階で有用性や成功率にも未知数が多く、将来妊娠を希望する人はまず主治医に相談することが大切です。技術的に困難であることが多く、必ずしも妊孕性を温存できる医療技術水準にまでは達していません。卵巣組織凍結のメリットは、卵子に比べて短期間で保存できる点にあります。がんの場合、診断から数日以内に治療を始めなければならないこともあります。卵子を採取する場合には、排卵誘発剤を使ってから2週間ほどの期間がかかるため、治療の開始が遅れてしまいます。また、排卵誘発剤を使っても卵子が採れる個数は限られていますが、卵巣組織なら一度に多くの卵子の保存も可能です。
日本産科婦人科学会では今年4月、安全性など、明らかでないことも多いとしたうえで、がん患者らを対象に卵巣組織の凍結を認める指針を出しています。産婦人科医らで作る日本がん・生殖医療研究会によると、国内では13施設が卵巣組織の凍結を導入しています。今後、若い女性のがんの治療成績は益々向上すると思います。そのため担がん女性の妊孕性温存は極めて重要となってきており、現在oncofertilityという学問領域が確立されています。そのためにはがん治療専門医と生殖医療専門医が緊密な連携をとって治療にあたらなければなりません。
(2014年12月9日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)