2004年の法人化後、国は運営費交付金を減らし、競争に勝つと獲得できる予算を増やしました。こうした競争的資金には、国や産業界が経済成長につながることを期待する研究テーマが選ばれることも多くなっています。人件費などに使われる国からの運営費交付金も、一部は国が定めた共通指標の達成状況などに応じて増減します。目標を達成できなければペナルティーが科される状態です。
この選択と集中で、学問の自由が失われつつあります。大学人が研究環境を構築する自治の精神を復活させなければ、大学が学問を究める機関ではなくなってしまいます。運営費交付金が減らされ、政策誘導的な予算配分となり、自分たちで考え、判断し、行動する大学の自治を発揮できる場面が減少しています。総合科学技術・イノベーション会議など、首相が議長を務め、財界人らも参加する有識者会議が、大学政策の大枠を決める手法が定着したのも、法人化後の大きな変化です。産業界は目先の利益を優先し、短絡的発想による意見が多くを占めるようになります。
国立大学に改革を加速させようと、国は教授会の役割を限定して学長の権限を強化しました。学長選考は教職員らの投票ではなく、学外者も参加する学長選考・監察会議が選ぶ仕組みとなりました。教授会の人事権を奪われ、学長のトップダウン体制が強化され、その学長も選べない状況に置かれています。大学法人化が始まり20年が経過し、学長の権限強化による弊害が様々な大学で起きています。
(2024年5月28日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)