子宮頸がんワクチンの接種を、国が積極的にすすめなくなって早くも1年半になります。注射の後に長期的な痛みなどに見舞われる患者が相次ぎ、国としても推奨を中止せざるを得なくなったのが現状です。子宮頸がんは子宮の入り口にできるがんで、性行為によるヒトパピローマウイルス(HPV)感染が主な原因でおこります。特に20代、30代の若い女性に発症するがんのうちで、最も頻度が高いのが子宮頸がんです。
ワクチンは、子宮頸がん全体の5~7割の原因とされる2種類のHPV(16型と18型)の感染を防ぐ効果があります。2013年4月に小学6年~高校1年を対象に、予防接種法に基づく定期接種と位置づけられ、これまでに約340万人が接種しています。しかし、接種後に原因不明の全身の痛みや運動障害を訴える少女が続出したため、厚生労働省は2カ月あまりで積極的推奨を中止しました。ただ、ワクチンの成分と痛みなどとの因果関係は証明されていません。厚労省の部会では、これらの副作用は注射時の痛みや不安による心身の反応との見解を1月にまとめています。しかし被害者側は反論しており、一部の専門家もワクチン接種後、時間経過とともにけいれんや痛み、歩行困難、脱力などの症状がでており、HPVワクチン関連神経免疫異常症候群という新しい病気の概念を唱えています。
日本では昨年6月以降、若い女性にほとんど接種がなされていません。子宮頸がんの検査受診率も海外の主要国に比べて低く、日本産科婦人科学会は十数年後には、日本だけが子宮頸がんの罹患率の高い国になる可能性を懸念しています。厚生労働省は、接種後の痛みなどに苦しむ人が適切な治療が受けられるよう、協力医療機関を整備しています。何よりも患者との信頼関係の確立が大切であり、すべての若い女性がワクチン接種の福音を享受できる日が一日も早くくることが望まれます。
(2014年12月23日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)