2019年に働き方改革関連法が施行され、政府は残業規制の強化などに取り組んできましたが、未だ道半ばです。労働政策研究・研修機構によれば、週49時間以上働く割合は2023年に15.2%と、欧米の主要先進国より高くなっています。男性は21.8%に上っています。
残業代の割増賃金率の低さが一因と思われます。日本は月60時間を超えるまで25%なのに対し、米国や英国では50%、フランスも週8時間を超えると50%です。安い残業代で働かせることが可能だからこそ、企業や経営者に残業解消の切迫感は薄くなっています。
既存の従業員に残業させる場合と新たに採用する場合の人件費を比べた均衡割増賃金率は2021年に44.3%でした。割増賃金率はこれより高ければ、新規で雇ったほうが人件費を抑えられるため残業の抑制につながります。残業の解消だけでなく、短時間正社員など柔軟な働き方の提示もカギとなります。正社員の待遇で1日の就業時間を短くしたり、週休3~4日にしたりできる制度ですが、2024年度の事業所の導入率は15.9%にとどまっています。
これまでの仕事と家事・子育ての両立支援は、女性の就労を促すことに主眼を置き、男性を中心とした長時間労働の是正は十分に進みませんでした。内閣府によれば、女性の潜在労働力は約290万人に上ります。男性を合わせると約540万人です。どんな事情を抱えていても無理なく働けるようにすれば、少子高齢化や人手不足の中で企業が成長する原動力になります。

(2025年9月17日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)