国立大学が法人化してから20年が経過しましたが、国立大学の教授らの給料は上がりません。東京大学のデータによれば、教授の平均給与は2022年度に約1,191万円(平均55.9歳)と、2004年度の約1,178万円(平均52.6歳)からほぼ変わっていません。世界との差は開いています。米国大学教授協会の調査によれば、米国の大学教授の平均給与は、2015年の約12万6,000ドル(1ドル=160円なら約2,000万円)から、2023年には約15万5,000ドル(約2,500万円)に増えています。有力大学は4,000万円超にもなります。
国際的な人材の獲得競争は過熱しており、給与水準が及ばないと、世界を相手に戦えるトップ人材を得るのは困難です。国内研究機関の苦戦は、AIのような流行りの分野に限らず起きています。対策の一つは、夏季休暇などの期間だけでも日本に来て研究してもらう方法です。海外の組織に在籍したまま、日本の研究機関の業務に従事できるクロスアポイントメント制度が使えます。
基礎研究に力を入れる理化学研究所は、2023年度から優秀な研究者を公募する際に現給保障を一部で導入しています。研究開発法人の待遇も国立大学と同じです。理研の2022年度のデータによれば、研究部長相当で平均1,269万円(平均年齢55.5歳)です。国内では高い水準ですが、国際的には見劣りするため、現給保障が必要と考えています。現給保障に関して、外国人だけ優遇するわけにはいきません。日本人も上げないと矛盾が生じます。全体の給与水準を上げる必要が出てきますが、外部資金の獲得などで原資を集めるのは簡単ではありません。
国立大学は人件費の工面に苦慮しています。近年、物価の高騰や円安で経費が膨らんだほか、医師の働き方改革などによる人件費の増加で負担が増しています。大学は企業からの研究費など外部からの収入などを増やそうとしていますが追いつきません。政府は全体への運営費交付金の増額ではなく、トップ大学の支援など複数の施策を組み合わせて対応してきています。
(2024年7月2日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)