地球の温暖化は累積の排出量にほぼ比例します。ネットゼロを達成してもそれまでの排出量が一定を超えてしまえば、一度上がった気温は元に戻りません。上がった気温を下げて今世紀末までに1.5度に戻すのが、オーバーシュートの考え方です。ネットゼロを達成したあとに、大気中からCO₂を取り除いて、濃度を下げるネットネガティブを達成・持続させることで気温の低下が可能になります。オーバーシュートのない1.5度目標の達成というのはもう難しくなっています。
カギを握るのは大気からCO₂を取り除く技術Carbon Dioxide Removal(CDR)と呼ばれ、大規模な植林のほか、CO₂を化合物質などに吸着させて直接回収する方法やバイオマス燃料を燃やした時に出るCO₂の回収・貯蓄などが挙げられています。しかし、半永久的にCO₂を隔離する必要があり、コストがかかります。
オーバーシュートして平均気温が下がり始めると、地域的な気温や降水量、北極の海氷面積などは、時間差はありますが回復するとされています。一方、海面は、数千年にわたり上昇し続けます。温暖化の影響が突然激化し、後戻りできない変化を引き起こすティッピング・ポイント(転換点)に達するリスクもあります。氷床や永久凍土の融解、熱帯のサンゴの死滅、海洋の流れの停止など、複数の現象がドミノ倒しのように連鎖する恐れもあります。
ネットゼロが遅れるほど気温が上がり、気温が高くなればなるほど、転換点に達する可能性も高くなります。温暖化のピーク時の気温が高いほど、1.5度への復帰の実現可能性は減ります。できるだけ早いネットゼロの達成が決定的に重要なのは変わりません。

(2025年11月21日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)





