厚生労働省の人口動態統計によれば、2023年の日本人の出生数は72万7,288人、合計特殊出生率は1.20まで落ち込み、いずれも過去最低でした。少子化は複合的な要因で起きていると考えられます。未婚化や晩婚化の進行のほか、例えば、男性の育児参加なども影響しています。
公益財団法人の1more Baby応援団は、2013年から毎年4月、既婚の男女約3,000人を対象に意識調査を実施しています。2024年は日本が産みやすい国に近づいていると思わないと答えたのは76.8%にも達し、同じ質問を始めた2017年以降、過去最悪でした。2人目以降の出産をためらう2人目の壁について、存在すると答えたのは78.9%で、過去最高となりました。その理由は、経済的な理由が73.4%でトップで、次いで第1子の子育てで手いっぱいが45.3%などが続き、多くの要因が影響していることがうかがえます。
国や自治体は、教育費や育児など様々な支援策を拡充しています。そうした中で、自身が子どもを産む後押しとなる支援制度を尋ねると、20歳代では出産費用の助成が6割を超えています。そのため出産費用の保険適用に向け、政府が検討を進めています。現在は医療機関が独自に設定している費用が全国一律の公定価格になることで、妊婦の経済的な負担の軽減や地域格差の解消が期待されています。
分娩費は、年々上昇しており、高額な出産費用のため、2人目の出産をためらう人も増えています。一方、産科医療の現場では、保険適用で全国一律の診療報酬が設定されれば収入が減り、医療提供体制を維持できるか不安視する声もあります。出産費用は地域差が大きく、2022年度は最も高い東京都が約61万円、最も低い熊本県が約36万円と1.7倍の開きがありました。産科医療機関が経営難で減少し、身近な地域で出産できなくなれば、不安感につながり、かえって少子化に拍車をかける恐れがあるため、慎重な制度設計が求められます。
(2024年10月18日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)