生殖年齢にある将来挙児を希望する女性が、がん告知を受けた時にどのようなカウンセリングをすればよいのか。若年がん患者であれ、原則としてがん治療を最優先すべきであり、治療中はがん治療に専念せざるを得ません。そして治療が終了し、がん治療医より妊娠許可が出たとしても、がん治療による卵巣機能不全によって挙児を得ることが難しい可能性があります。ARTを実施して必ずしも妊娠できるとは限りません。また原疾患の状態によっては、ART治療中も再発や再燃のリスクがあり、がんに対する恐怖が完全に消え去るわけではありません。
がんと告知された後、若年女性のがん患者はがん治療開始前の限られた時間内に、妊孕性温存に関する判断をしなければならなくなります。がん治療によって妊孕性が消失する可能性を考慮し、妊孕性温存のための医療手段を受けるか否かを自らが決定することになります。がん告知により不安や抑うつ症状がある中での妊孕性消失の可能性についての説明は、患者にとってはかなりの心的外傷ストレスになることが予想されます。この場合の精神的サポートは、1. がん告知後、がん治療を受ける前の妊孕性消失および低下に関する説明を受けた後のカウンセリング、2. 妊孕性温存治療を受けなかった場合、妊孕性消失時のカウンセリング、3. 妊孕性温存治療を受けた場合、妊娠の時期やがんの再発や再燃の恐怖に対するカウンセリングなどが必要となります。
原疾患の治療開始までの時間が限られている中で、患者や家族に対していかに正確な情報を伝えるか、そしていかにがん治療医や生殖医療専門医と密に連携を取ることができるかが大切となります。そのためには医師のみならず看護師、臨床心理士、薬剤師、ソーシャルワーカーなどから構成される医療チームの結成が不可欠です。大切なことはがんの治療を優先することであり、患者の症状によっては妊孕性温存を断念せざるを得ない状況を患者に伝えなければならないことがあります。その際には十分な説明後何よりも患者に納得してもらうことが大切であり、不要ながん治療の延期や中止は避けるべきです。
(吉村 やすのり)