稲作農政への期待

 わが国の稲作政策の基本は、米価の維持にあります。需要減少に合わせ、減反で生産・流通量を減らす需給均衡策を半世紀にわたりとってきました。減反・転作政策には、毎年およそ3,000億円の予算が使われています。ここにコメ騒動の最大の原因と稲作農政の課題があります。一見農家にとって良さそうな米価維持政策は、実は予期せぬ事態に弱く、中長期的には稲作を衰退させる政策になっています。
 農林水産省が公表した主食用米の将来予測では、国内需要は2020年度の704万トンが2040年度に493万トンに減少し、作付面積も大幅に減少します。コメの高値が続くと消費の減少スピードが早まり、さらに生産を縮小せざるを得なくなります。これまでの農政を続けて衰退を座視するのか、農政を転換し輸出可能な成長産業を目指すのか、稲作は今分岐点にあります。

 成長を目指す農政の基本は、規模拡大や技術革新をしながらコスト低減し増産を図り、輸出を拡大することであります。国内の未利用の水田の稲を作付けすれば、供給量は年1,300万トンになります。供給過剰になる600万トンほどを輸出に回すべきです。いざという時の備蓄という考え方で、その方が需給管理にゆとりが生まれます。
 最も大切なのは稲作の生産基盤の強化です。わが国のコメの生産性は低く、国際競争力があるとは言えません。よく農家の高齢化や減少が農業生産の停滞要因として挙げられますが、高齢化で離農が進めばむしろ規模拡大の機会は増えることになります。
 わが国の農業産出額の5割は既に農家数のわずか1.9%にあたる大規模経営によって担われていることも忘れてはなりません。農業産出額を増やすのは農家の数ではなく、農家の持つ資本装備であり経営ノウハウです。ほんの少数の稲作経営者でも、技術革新しながら新たな経営システムを構築すれば、国際市場に貢献できるようになることは十分に考えられます。

(2024年10月22日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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