若い女性ががんの宣告を受けた時-Ⅱ

今世紀に入り卵巣の凍結保存も実施されるようになり、融解後の卵巣組織の移植による妊娠例が報告されるようになってきています。卵子や受精卵の凍結保存が数個の卵子しか凍結保存できないのに対して、卵巣の凍結保存は組織を凍結するため、一度にたくさんの卵子数を保存することが可能となります。また卵巣刺激操作が必要なく、診断されたらすぐに腹腔鏡下手術により、卵巣組織を摘出することができるため、原疾患の治療の開始を延期させなくてもよいことが利点です。卵巣凍結法には、緩慢凍結法またはガラス化法で凍結保存し、卵巣組織を解凍後自己移植して卵胞の成熟を促す方法と、分離した卵胞を体外培養し成熟卵を得る方法があります。卵子の凍結にはガラス化法である急速凍結法が用いられ、良好な成績を得られるようになっていますが、海外における卵巣凍結では緩慢凍結法が使用されています。

 原疾患の治癒後、凍結しておいた卵巣組織を融解して卵巣に移植します。移植すると自然の月経周期が回復し、自然妊娠を期待することもできます。成熟卵子を得ることが困難な思春期前の女性でも凍結保存が可能であり、卵子凍結と異なり月経周期再開という点から、女性にとってはエストロゲンによる生理的なホルモン環境を取り戻すことができるという長所があります。しかし、一般的には卵巣刺激を行い、多数の卵子を採取し、体外受精を行うことになります。これらの卵巣組織の移植は未だ医学的に確立された方法ではなく、成功率が低いことが問題です。また凍結した卵巣組織内に原病のがん細胞が残っていることがあり、移植によりがん細胞を再移入する可能性も否定できず、再発が起こることがあります。しかしながらこの方法は、将来既婚女性を含めて悪性腫瘍患者の妊孕性保持のために非常に合理的な方法となる可能性があると思われます。

(吉村 やすのり)

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