過労死という言葉を初めて法律に使い、国に対策を講じる義務があると明記した過労死等防止対策推進法が成立して10年を迎えます。過労死が注目されるようになったのは1980年代後半です。日本経済はバブルの絶頂期で、中高年の男性が、長時間労働で発症する脳・心臓の病気が問題になりました。現在、体は比較的元気な若者や、女性を含む心の病である精神障害が目立つようになってきています。
死亡に至らないケースも含む労災認定の件数をみると、脳・心臓疾患は減少傾向にありますが、2022年度は194件でした。40代以上が9割で、全体の9割超が男性です。精神障害の労災認定は、ほぼ右肩上がりで増加しています。2022年度は710件に上り、20~30代が半数を占めています。さらに全体の45%は女性です。長時間労働に加え、パワハラ、セクハラ、最近ではカスハラといった様々なハラスメントが指摘されています。
過労死防止法は理念法にとどまり、労働時間などを規制する労働基準法や労働安全衛生法の改正は協議会の議論の対象外です。防止法の理念を生かして、長時間労働やハラスメントを無くす法改正を実現しないと意味がありません。
(2024年6月19日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)