専業主婦(主夫)や配偶者の扶養のなかで働く人は、年収106万円未満などの場合は、保険料を払わなくても老後の基礎年金を受け取れます。元々専業主婦は、公的年金への加入は任意で、離婚した場合に自分名義の年金が無くなるといった問題がありました。老後の生活を安定させる狙いで、1986年に第3号制度が導入されました。当時は専業主婦世帯が多数を占めていました。
第3号被保険者は、ピークの1995年度には1,220万人いました。2022年度末時点では721万人と4割減少しています。30年前は一般的だった専業主婦世帯は、共働き世帯の半分以下に減っています。制度ができた時代とは働き方が変化しており、実態とのずれが指摘されています。しかし、30代後半の女性では、3割程度が第3号被保険者です。
仮に単純に第3号制度を廃止して、20~59歳の専業主婦らに新たに保険料の納付を求めれば、生涯の生活設計は大きく変わります。保険料の免除や未納者が増え、将来受け取れる年金額が少なくなる懸念があります。現在の第3号被保険者の中には、育児や介護、身体的な問題で働くのが難しい人もおり、配慮が必要だとの指摘もあります。当面はより多くのパート労働者に厚生年金に加入してもらい、現在の第3号被保険者が段階的に保険料を負担する方向性が妥協点でしょうか。
(2024年5月14日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)