最近“卵子の老化”という言葉がよくつかわれる。卵子と精子が受精して胚がつくられる。卵子と精子は同じ配偶子と呼ばれているが、つくられ方は全く異なる。造精機能に問題がなければ、精子は思春期以降、70日間位をかけて常につくられている。しかし卵子は現在のところ、出生後新たにつくられると考えられていない。胎生20週まで卵子は増殖し、ピークに達し、その後一途に減少しつづける。出生時には、200万個位まで減少し、思春期では20~30万個となる。その後も減少しつづけ、卵子の数が1000個以下となると閉経が近づくとされている(図1)。卵子の数の減少とともに卵子のクオリティーも低下する。受精障害がおこったり、受精しても染色体異常がおこり、胚としての発育がおこらないことが多くなる。そのため妊娠率が低下し、流産率は高くなる。
体外受精、胚移植がさかんにおこなわれるようになり、体外で受精現象が観察できるようになると、38歳以上の高齢女性での受精率の低下が顕著となることが明らかとなり、妊娠しても流産率が30%を超えるようになる(図2)。これは卵の質的低下によるものであり、これを“卵子の老化”と呼ぶ。ヒトは人間である前に哺乳動物であり、生殖年齢には適齢期があることを知らなければならない。現在では卵子若がえり法として、卵子の細胞質を変える方法が試みられているが、医学的にも倫理的にもヒト応用まではいたっていない。つまり卵子の若がえりは現在のところ不可能と考えてよい。40歳以上の高齢妊娠では早産、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、分娩時出血など妊娠合併症も急激に増加する。生物生殖学の観点からは、やはりヒトは20代後半から30代前半で妊娠、出産することが望ましいと思われる。
(吉村 やすのり)