昨日は多くの方に番組をご覧頂き誠にありがとうございました。
たくさんのご意見、ご質問を頂戴しましたのでQ&Aを作成致しました。
今後も貴重なご意見をお待ちしております。どうぞよろしくお願い致します。
1 海外で卵子提供を受け、日本で出産する人が増えている実感はありますか?
私どもの病院に来られる患者さんが年々増えて来ています。また、厚労科学研究においても、2004~2008年 分娩10,000例に1例、2009~2012年 分娩10,000例に2.7例、おそらくこの10年で2~3倍に増加していると思います。
2 多くの女性たちが海外(アメリカやタイ)に渡ってまで治療を行っている現状があります。日本の医療当事者としてどう思いますか?
わが国においては、卵子提供に関するガイドラインもなく、提供卵子を得ることが困難な状況にあります。このような状況下で提供卵子を求めて海外へ行く、これがいわゆる生殖ツーリズムです。今や生殖グローバリゼーションの時代になってきており、わが国においても卵子提供によるARTができるような体制を考える時期にきていると思われます。そのためには早急な親子関係の法整備を含めたガイドラインの策定が必要になってくると思います。その前にわが国において卵子提供をしてよいのかどうかの国民的コンセンサスが必要です。立法府で是非の判断をしていただくことが大切です。
3 若い日本人女性がドナーとなるケースも。懸念すべきことはないか?
クライエントはやはり日本人の卵子を要望されますので、これまでは海外での日本人女性、特に留学生がドナーになることが多かったと思います。最近では日本に住んでおられるドナーが卵子提供のために海外に行くケースも増えています。以前と異なり、採卵にあたっての身体的リスクは少なくなりましたが、最も注意しなければならないことは、金銭の授受にかかわる倫理上の問題です。
4 国内で実施するには、どのような課題があると考えますか?
2003年に厚労省や法務省は、5年間もの審議を経て、法整備を含めた精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療に関するガイドラインを策定いたしました。しかしながら、これら報告書に基づく法案はいまだ国会で審議されていない状況です。わが国でも実施するには少なくとも親子関係についての法整備を含めたガイドラインを作ることが必要となります。
5 卵子を金銭でやりとりすることについて、倫理的課題は?
多くの日本人クライエントが卵子を求めて海外に行かれるため、日本人女性の卵子は大変貴重です。そのため6,000~7,000ドルあるいはそれ以上で卵子が売買されることもあります。米国では大学の掲示板にも“卵子を買います”といった広告が載っているような状況です。ドナーになる女性もボランティアということで軽い気持ちで卵子を提供することになります。この点は大変大きな問題です。
6 去年、金沢大学の助教が行った調査では「卵子提供による妊娠と判明すると、他の病院を紹介する・もしくは断ると答えた周産期医療の医師が25%以上」との結果。なぜこうした結果になったと思いますか?
わが国においては、卵子提供が困難なため、45歳前後まで夫婦間の体外受精を続けることになります。その後、子どもができないクライエントカップルは、提供卵子を求めて海外へ行くことになります。そのため、卵子提供による妊娠はどうしても高齢妊娠ということになり、46歳くらいから55歳前後での妊娠となってしまいます。このような妊娠は非生理的であり、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、早産、分娩時出血など多くの妊娠合併症をともなうことになります。そのため、一般病院では妊娠分娩を管理することができない状況が想定され、高次な医療機関を紹介することになります。やはり提供卵子による妊娠は、リスクが高いことを考慮すると、総合あるいは地域周産期センターにおける分娩が望ましいと思われます。
7 生まれた子どもに卵子提供の事実を告げるかどうか、子どもの「出自を知る権利」をどのように考えればいいのか。
出自を知る権利は、子のアイデンティティーの確立、そして信頼に基づく安定的な親子関係の確立の観点から、子どもにとって極めて重要な権利です。この権利は、精子提供による人工授精(AID)で非常に大切な問題として取り上げられていますが、卵子提供においても生まれた子どもに対して真実を告知することが大切であり、出自を知る権利は充分に考慮されなければなりません。
8 卵子提供やそれに伴う告知の課題。世界ではどのように扱われているのか。
卵子提供による妊娠は、女性自らが分娩することになり、その女性は子どもの出産に積極的に関わることになります。そのためAIDと異なり、比較的子どもに対して真実を告知しやすい状況にあると思われます。精子と異なり、海外においては多くのケースで告知がなされていると思います。
9 卵子提供が必要となる根底には、卵子老化を産む社会的な状況があると思うが、すぐにでも実現しなくてはいけないこと、長期的に考えていかなければならないことは?
女性の体にとって理想的妊娠時期と考えられるのは25~35歳くらいです。この時期に妊娠しても、子どもを育てられるような職場や社会の環境整備が必要となります。女性が子どもを産んだ後も仕事を続けられるようなシステム作りをすれば、高齢妊娠や出産は減少し、卵子提供を受けなければならない女性は減ってくると思います。
長期的には、今後は若い女性が将来のために自らの卵子を採取して、卵子を凍結保存しておいて、キャリアを形成した後にその卵子を使い妊娠することも考えられます。いわゆる社会的な卵子凍結です。この際にも卵子を凍結保存しておけばいつでも妊娠できると考えておられる女性もお見えになりますが、これらの技術によって生まれた子どもは現在のところ限られており、長期的な安全性も確認されていない。そして、凍結した卵子を用いて40歳代になって分娩したいと考えられる女性がおられると思いますが、これにはまた高齢妊娠のリスクが生ずることになります。このような社会的な卵子凍結をどのように考えればよいのか、さらなる議論が必要になります。
(吉村やすのり)