父子関係について考える-3-

DNA型鑑定は、これまで犯罪捜査などで活用されてきたが、ここ数年個人で依頼する人が増えてきている。この大半は子との血縁関係を調べるものであり、夫婦関係が悪くなり念のため自分の子かどうかを調べるための依頼が多いとのことである。依頼者は口腔内の粘膜を綿棒で採取し、子の材料はへその緒や髪の毛を用いることが多い。男性のたばこの吸い殻や電気シェーバーを持て来て鑑定を依頼する女性もいる。裁判に提出する公式な鑑定書の作製費用は10万円前後である。わが国においてはDNA型鑑定に関する規制はないが、フランスでは、生命倫理法により裁判所の許可なしに検査をすることができない。フランスでも今回の判決と同様に、血縁のみで父子関係が定まることはないとされている。

嫡出推定の規定が設けられたのは、子どもの身分関係を早期に安定させ、子の保護を図るためとされる。父親のいない子どもを生じさせないとする法の配慮であり、嫡出の否認の訴えにも難しい条件が課せられている。今回の判決では、生物学上の父子関係がないことが科学的証拠により明白であっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要がなくなるわけではなく、嫡出推定が及ばなくなるとはいえないとした。ただ今回のケースでは夫婦関係は破綻し、子どもはすでに遺伝学上の父親と一緒に暮らしている。こうした現状を重視すれば、実の父親を法律上の父としてよいのではないかとする反対意見もあることは、少なからず理解できる。

親子関係の認定には、ケースにより様々な状況の違いがあり苦慮することが多い。民法の嫡出推定は子の父親が夫でない場合も想定した制度であり、DNA鑑定で覆すことはできないと思われる。子の意志を確認することなく、親が父子関係のDNA型鑑定を調べることは問題である。安易なDNA鑑定は避けるべきであり、諸外国に見られるような何らかの規制は必要となるであろう。将来子どもが実の父親との法律上の親子関係を望むような状況がくるかもしれない。その時は現実に即した法的措置も講じられるべきである。    終

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